RION Techinical Journal Vol.1
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2009年、試作段階の軟骨伝導補聴器は、バイモルフ型圧電振動子を採用したもので、1000 Hz以下の出力が低く、電源電圧は3 V以上必要であり、消費電力は60 mW以上(一般的な補聴器は1 mW程度)も要した。結局、この延長線上に完成形はないと判断された。振動子によって発生した軟骨部の振動が、外耳道の軟骨部を動かし、外耳道内に気導音を生成する。軟骨伝導補聴器の音の伝わり方(外耳道がある場合)細井裕司先生監修音は、軟骨から伝わるか?〜軟骨伝導補聴器ができるまで〜PROJECT STORYリオンのプロダクト開発ドキュメンタリー2017年、リオンは世界初※となる軟骨伝導補聴器を発売した。新たに発見された第三の聴覚経路「軟骨伝導」を活用したプロダクトだ。この補聴器がどのように開発され、世に広まっていったのかを追う。※2017年9月当社調べ細井 裕司奈良県立医科大学理事長・学長。MBT研究所所長。医学博士。軟骨伝導聴覚の存在を世界で初めて発見し、16篇の論文を発表。軟骨伝導に関するリオンとの共同研究の中心となり、軟骨伝導補聴器開発を成功に導いた。突然、訪れた全く新しい聴覚経路の発見 全ては、耳の周囲の軟骨を振動させることで音を効率よく伝えられる、という着想を得たことから始まった。この「軟骨伝導」を発見し、製品化の起点となった研究者が奈良県立医科大学の細井裕司先生だ。「音は振動として外耳道から鼓膜、耳小骨に伝わり、内耳で神経刺激に変換されて脳で知覚しています。音を伝達する主な媒体は空気であり、空気の振動を介して知覚する音を『気導聴覚』と呼びます。また、内耳を入れる側頭骨に直接振動を与えることでも音を伝達でき、こうした振動を介して知覚する音を『骨導聴覚』と呼びます。長年、音を伝える経路は、この『気導』と『骨導』のみと考えられていました。ところが2004年、私は突如、第三の聴覚経路である『軟骨伝導』を発見することになります」 耳の内部にある骨と軟骨は似て非なるもの。英語ではbone(骨)、cartilage(軟骨)と呼ばれる通り、両者は全く異なる耳の構成要素だ。長年、骨の振動によって音を知覚できることは知られていたが、軟骨の振動が音の伝達経路として取り上げられたことはなかった。そして2004年のある日、大きな発見をすることになる。 一般的な補聴器といえば、耳あな型や耳かけ型が思い浮かぶかもしれない。これらの補聴器は鼓膜に音を伝えているため、外耳道の閉鎖により鼓膜に音を伝えることができない外耳道閉鎖症などの場合は、使用できないことが多い。こうした場合、これまでは骨導補聴器(ヘッドバンドタイプ、埋め込み型など)を使用するケースがほとんどであり、身体への負担も少なからずあった。そのような状況を大きく変えるべく開発されたのが、イヤホンの代わりに振動子と呼ばれる小さな部品を耳に装着する軟骨伝導補聴器である。外耳道が閉鎖している場合や、閉鎖はしていないが中耳炎などで耳だれがある場合でも、快適、容易に装用できる。世界で初めて「軟骨伝導」を利用した補聴器なのである。「振動子を種々の部位に当てて音を聞いていた時に、あれっと思ったんです。振動子を骨に当てた時と、軟骨に当てた時で音の聞こえが違うと。仮説も予想もありませんでしたが、とにかく直感的に違うと感じた。その違和感を頼りに振動子をいろいろな部位に当てて慎重に確かめてみると、やはり骨と軟骨では、はっきりと音の聞こえが違うと分かりました。私が骨伝導の専門家であれば、聴覚経路には空気と骨しかないというそれまでの概念に固執し、見過ごしていたかもしれません。そこからこれはどういうことかと研究を重ねていくんです」 そして、この軟骨を介した音の伝導は、細井先生によって「軟骨伝導」“Cartilage Conduction”と命名される。取材・文/編集部撮影/赤羽 佑樹2

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