RION Techinical Journal Vol.2
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あいうt(時間)時間微細構造(temporal ne structure)振幅包絡(Envelope)難聴の場合、音の変化が分かりにくくなる時間分解能低下による聞き取り悪化のイメージ(イメージ図)81632641282565120-5-10-15-20-25-30-35変調周波数(Modulation frequency) [Hz]健聴者の変調度の検知閾難聴者の変調度の検知閾変調度の閾値(Modulation detection threshold)[20log(m), dB]時間変調伝達関数(TMTF)音圧の変動変調の速さ大きい速い遅い小さいローパス・フィルタ特性 L f L Lps= L + L fcutoff f f変調度の閾値(Modulation detection threshold)[20log(m), dB]変調周波数(Modulation frequency) [Hz]2点を測定時間変調伝達関数(TMTF)の簡易測定法 f時間分解能とは聴覚における時間分解能とは、「音の振幅包絡の時間的な変化を検出できる」能力のこと。この時間分解能の低下を補償する「技術が搭載されている補聴器」は現時点では存在しないものの、時間分解能が低下した場合の聞こえの模擬や、時間振幅包絡を強調する処理が検討されている。である、聴覚系の時間応答特性を理解しやすい形で表現した「時間変調伝達関数(TMTF)」に着目した。「周波数選択性やリクルートメント現象については、臨床現場で測定可能な方法やそれら能力を補償する技術が搭載された補聴器がすでに開発されているんです。しかし、時間分解能については、この能力を補償する技術が搭載された補聴器の開発までには至っていないのです。これにはさまざまな要因があるのですが、補償技術を開発・調整するためには、実時間処理に応用可能である指標を短時間で測定しなければなりません。指標としてはTMTFが挙げられますが、TMTFは測定に時間がかかるという問題がありました。そのため、TMTFの簡易測定法を提案し、測定時間を10分程度にすることに成功しました」 従来の測定では30〜40分ほどかかるところを約1/3に短縮したのである。誰も気づかなかった「2点測定」という着眼点 提案されたTMTFの簡易測定法は実にシンプルだ。TMTFは、通常7点以上の測定結果により表現されるが、この形状は、1 次のバタワースフィルタの形状に近似していることが報告されているため、2 つのパラメータで表現できるはずである。そのため、低変調周波数(図のfα)における「変調度」の検知閾(図のLα)と、その検知閾よりも大きい変調度(図のLα+ Lβ)における「変調周波数」の検知閾(図のfβ)の2点の測定結果のみで、TMTFを推定できる可能性を示したのだ。 簡易測定法の評価を行うために、健聴者26名、難聴者21名に対し、従来法と簡易測定法で実験を行い、それぞれで得られた測定結果をもとにTMTF を推定した。「この簡易測定法の妥当性および有効性を評価するために、健聴者と難聴者において、従来法と簡易測定法を用いてTMTFを推定しました。この二つの推定結果の間に相関関係が認められ、系統誤差が認められなかったのです。また、簡易測定法は10分程度と、従来法の約1/3の時間で測定できることから、臨床現場や補聴器フィッティング現場でも測定可能であることが実証できました。難聴者の多くは高齢者のため、長時間の測定では疲労や集中力の低下から正確な測定ができなくなる可能性が考えられます。加えて臨床現場や補聴器フィッティング現場では、時間分解能の測定だけではなく、聴力レベルや語音明瞭度の測定も必要となるため、一つ一つの指標は短時間で測定できることが好ましいことなんです」 今回の森本の功績は、難易度の高い技術を開発したというよりも、誰も気づかなかった「TMTFを2点のみで推定する」という点に着眼したことだ。ただ、この簡易測定法が臨床現場や補聴器フィッティング現場で広く応用されるためにはまだ課題がある。「臨床現場で測定される自覚的検査のほとんどはオージオメータに搭載されています。そのため、簡易測定法もオージオメータに搭載されることが望ましいのですが、一般的なオージオメータの検査で行われるような1 〜 2 つのボタン操作だけでは測定の実施が難しいんです。また、測定時間についてもさらに短くなることが好ましい。まだまだ研究が必要ですが、引き続き臨床応用を目指し、提案法を改良したいと思っています」13

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