RION Techinical Journal Vol.2
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EPILOGUE-SCIENCE, SCIENCE!春田 智穂技術開発センター所属。補聴器用のソフトウェア開発、新機能の研究開発などを行う。また大学院に在籍し、音のアルゴリズムに関する研究を続けている。全くわからない反論できない頭では理解時間心から理解楽しい、ワクワク集中して向き合うことが必要気分転換しながら考えるのも楽しい常に頭の片隅にあるアルゴリズムなら:改良できるアルゴリズムなら:使えるようになる新しい事実や新しい主張と向き合った時、思考はこのように進行し、やがて頭と心の理解へたどり着くのかもしれない(原案/春田智穂)無限には大小がある!? 私が数学に興味を持ったのは、「無限」という問題について聞いたことが大きなキッカケでした。もちろん無限という数は存在せず、言ってみれば数えられない状態を表すのが無限ということになります。この無限について考える時間は、私にとって今でも楽しいものであるだけでなく、仕事にも少なからず役立っています。無限とはそれほど面白いものなんですよ。※         ※ 無限の何が面白いのか。たとえば無限の大小というトピックは私だけでなく多くの人の興味を惹くのではないでしょうか。自然数と偶数を例にお話ししましょう。自然数の個数は無限、偶数の個数も同様で無限です。では果たして自然数の無限と偶数の無限は同じ量の無限なのでしょうか。1,2,3,4,…と続いていく自然数と、2,4,6,8,…と続いていく偶数。どちらも無限だとしても、自然数の無限の方が大きいはずだと誰もが思うのではないでしょうか。結論から言ってしまえば、自然数の無限と偶数の無限は同じ大きさなんです。どうしてでしょう。※         ※ 2つの集合の要素の個数や量が同じかどうか確認するためにはいくつかの方法があります。分かりやすい方法は、運動会の玉入れでどちらのチームの玉が多いかをひとつひとつ数えるものです。「い~ち、に~、さ~ん」と2つのチームの玉をそれぞれ1つずつ数えていくと、いずれ一方の玉がなくなり、勝ち負けが分かります。つまり2つのチームの玉を1対1で対応づけていき、対応づけられない状況が発生した時に大小関係が分かるのですが、すべての玉が対応づけられたなら同じ量であると言えますね。逆に「対応づけることができる」ことさえ分かっていれば最後まで数える必要はないんです。※         ※ この考えを自然数と偶数の話に戻してみましょう。1,2,3,4,…と2,4,6,8,…は「2倍する」「1/2にする」という計算で、お互い1対1に対応づけることができます。たとえば自然数13には偶数26が、偶数512には自然数256が対応します。 これが「1~10の自然数」 「1~10の偶数」のような有限の範囲だと、対応づけのルールが作れません。しかし、無限の範囲では、どんなに小さな偶数でも、気の遠くなるくらい大きな自然数でも、かならずそれに対応する偶数もしくは自然数が存在します。なにせ「限りの無い」範囲なのですから…。このことを知った時、私はきつねにつままれたような気分になりました。※         ※ 10以下の自然数と偶数といったように有限の範囲内で考えてしまえば、自然数の方が多いとすぐに分かります。でも無限の世界では全く話が変わってきます。普段、私たちは有限の世界で物事を考えがちですが、その考え方は無限の世界では通用しません。自然数の無限と偶数の無限は同量であるという不思議な現象、確かにそうだなと思ってその日は終わるんです。でも、気になって仕方がないので、ふとした日常の瞬間や移動の最中に、あれはどういうことだったんだろうと何度も反芻する。なんだか分からないけど、時間が経って落ち着いて考えると「そうだよね」と思い、またある時「なぜだろう」に戻り、またふとした時に腑に落ちたり。そういう思考を何度も繰り返しながら、「理解できた」という方向へ収束していく。新しいことを理解する時にはこういう思考のサイクルが必要なんだということを「無限」が教えてくれたんです。※         ※ 新しい事実や主張を知った時、よく分からないけど反論できないというのが第一段階。次に、頭では理解できたけど心では理解できないという第二段階。そしてちょっと腑に落ちたなという第三段階を経て、最後に、頭でも心でも理解できたという第四段階へ移行していく。頭では分かっていても、心で納得できるまでには時間がかかることがあるんだなと思うわけです。そう考えると、分かったような分からないような時間も楽しくなってきませんか。※         ※ 補聴器を調整するためのソフトウェアを開発するのは私の仕事のひとつですが、新しいソフトウェアを設計するために、活用できそうな最先端のアルゴリズムを理解しようとしても、すぐに頭と心が納得できるわけではありません。それでも嫌にならずに、分かったような分からないような時間を経て、完全な理解に行き着くまでの時間を楽しめるようになった。これも「無限」のおかげなんですよね。私にとって数学の楽しみと今の仕事は地続きでつながっていると、あらためて感じています。002「無限」の考察が止まらない!リオンを支える、理科や数学好きなスタッフたち。この連載では毎回、理数系のスタッフがそれぞれの「理数愛」を語る。第二回は「無限」について。数学好きなものでリオンスタッフのこだわりコラム20

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