RION Techinical Journal Vol.2
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マレーシアにて細井が海外での営業活動時に撮影した記念写真。RACSの海外展開においては第一段階としてこのマレーシアとタイが主な舞台となった。使って・・・ という作業を繰り返し行うことにしました。そのような中で「完成した」とぬか喜びしたこともあったんですが、そう簡単ではありませんでした。なぜなら音響カプラは幅広い周波数で音を出してマイクロホンや騒音計の校正をするもの。250 Hzまたは1 kHzのワンポイントだけを管理するのであれば、繰り返し測定の再現性を高くする手法が確立していますが、RACSの場合、音響カプラは1 Hzから20 kHzまでの幅広い周波数で音を出して騒音計やマイクロホンを管理しなければならないのです。従って以前の何倍も苦労がありました。もう何度、粘土を塗りたくったか分からないほど繰り返しました(笑)」 今回はうまくいったと思えば、異なる周波数で問題が発生する。そんないたちごっこの戦いを地道に前進すべく、粘土とともに格闘した森川。2年間かけてついに理想のカプラの形状を突き止めたのだ。「粘土という武器は威力を発揮しました。通常、機器の試作段階で粘土を利用することはないんですが、私は粘土での検証に自信を持っています。最終的には本来の材料でカプラ内の対称性、堅牢性を確保しているのですが、粘土がなければこの成果は達成できなかったかもしれません」 リオンでは1 Hz 〜20 kHzいう広帯域のカプラを開発して不確かさを算出した前例がなかったため、森川が歩んだのは前例のない道程だったと言える。あらためて自身が達成した仕事を本人はこう評した。「RACSのような大きなプロジェクトに関われてあらためて嬉しいと感じます。また、国内だけでなく海外でもこの音響カプラが使われて、RACSで校正された騒音計やマイクロホンが色々な現場で活躍してくれるのは誇らしいこと。ただ、このカプラ開発は苦しい道のりでもあったのでしばらくはゆっくりしたいかなと(笑)。そうも言っていられないんですけどね」世界的な影響力を持つRACSのプロジェクト リオンサービスセンターでは日頃、騒音計や振動計の修理や校正を行っている。ここで業務に従事する仁科道はRACSやマイクロホンなどを音響カプラに装着する。その際、機器の差し込み方向によって測定値のばらつきが生じてしまう。RACS開発の初期にはこの問題を解消できなかったのだ。「前任の方から、機器の差し込み方向を変えると繰り返し再現性が悪いという情報を受けていました。でもなぜそうなるかが分からなかったんです。なのでもうひたすら色々なパターンで音響カプラに機器を装着し、都度音響カプラの構造を変更し、どれだけ測定の再現性を担保できるかを検証していきました。改善するための方策が分からず、本当に地道な作業ではありましたが、少しずつ問題点に気づくようになったんです。その間、約2年。装着しては測定値をチェックし、音響カプラの構造について考え、ということの連続。まさか、ここまで大変な作業になるとは思いもしませんでした」 そんな森川がようやくたどり着いたのは、音響カプラの内部構造における対称性と堅牢性の確保という答えだった。音響カプラの内部には、音源からの校正音をマイクロホンまで通す、または音響カプラの内側と外側の気圧平衡を行うため、空気の通り道が設けられている。このような内部構造やマイクロホンの構造が対称になっていないために、騒音計やマイクロホンなどの管理対象の機器を装着する方向によって測定値にバラツキが出てしまう。ある位置で機器を装着した時の測定値と、その位置から機器を回転させ装着した時の測定値がガラッと変わる。これでは騒音計などを管理することはできない。そのため可能な限り、音源から見た時の音響カプラ内の対称性、堅牢性を確保し、管理対象機器をどのように装着しても再現性のある値が得られるようにすることが森川の最終ゴールとなった。画期的な結果をもたらした秘密兵器「粘土」「以前、遮音性を高めるために粘土を使って音の漏れを検証したという経験があるんです。そこでRACSのカプラに粘土を使って検証、また別の部分にも粘土ををこう評する。「1 Hzから20 kHzまでをトータルで校正できるということで私たちの工数が大きく減少しました。RACSというものが開発されていると初めて聞いた時は、本当にそのようなものができるのかなと実は半信半疑だったんです。一つの工程で、しかも自動で校正が済むということはそれほど画期的なことなんです。RACSのポイントはISO/IEC 17025認証取得のために必要な機能を備えているということ。この規格を満たすためにこれだけシンプルな操作で測定ができるというシステムは極めて価値が高いと感じます」 RACSは騒音計やマイクロホンを校正する、という一般にはほとんど馴染みのないシステム。だが、こうした校正システムによって計測器が校正されることで性能が保証され、測定の信頼性が担保される。人々の気が付かない場面で社会を支えるRACSの登場。間違いなく、リオンの誇る輝かしい業績のひとつと言っていい。5仁科 道リオンサービスセンター株式会社 エンジニアリングユニット カスタマーサポートグループ 環境機器チーム所属。騒音計、振動レベル計等の修理、校正を担当した後、品質保証部でJCSS校正に関わる。RACS 開発においてはISO/IEC 17025 の認証取得に尽力。

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