2030年リオンが見据える リオンの思想「補聴器を活用できる社会へ」 「リオンは国産初となる補聴器(のちの『リオネット』)を開発し、すでに70年以上の歴史を重ねてきました。では今後、超高齢社会に突入する日本の補聴器はどうあるべきか。2014年の段階で目指すべき理想の未来像として描いたのが『2030年、暮らしの中の補聴器』です」と、技術開発センター副センター長の成沢良幸は話を切り出した。 補聴器の開発は、時代により変化するユーザーニーズを知り、社会のあるべき姿を予想した上で始められる。補聴技術そのものは、これまでに長足の進歩を遂げてきた。さらに次の段階に進むには、難聴に悩む人たちの今後の生活で求められる、補聴器のあるべき姿を考える必要がある。そこで約30の生活シーンを設定し、それぞれの状況において難聴者がどのように行動できればよいのか、理想のあり方を想定した。 一方では、補聴器そのものに求められる進化についても6つの観点から熟考を重ねた。すなわち「聞こえの妨げの排除」「簡単操作・簡単メンテナンス」「小型化と豊富なデザイン」「遠隔フィッティング」「耐水性と耐衝撃性」「無線インフラ」である。補聴器を活用するための社会的課題 補聴器ユーザーの大半は高齢難聴者だ。加齢に伴い耳が聞こえにくくなるのは、ある意味自然の摂理である。団塊の世代が後期高齢者となる2025年以降、日本で難聴に悩まされる人が急増するのは、ほぼ確定した未来といえるだろう。 ところが、日本の難聴者の補聴器普及率は、わずか14%ににとどまっているのが実状だ。この数字は欧米に比べて3分の1程度でしかない。 なぜ日本では、補聴器の普及が進まないのか。原因は大きく2つ考えられる。難聴者とそれを取り巻く社会の問題と、補聴器を入手し活用するための環境の問題である。そもそも難聴者自身に難聴の自覚がなく、まわりも難聴者の問題を深く理解していない。加えて補聴器を入手するための公的補助が乏しいのが日本では大きなネックとなっている。 こうした状況を改善するため、日本では2019年に自民党・難聴対策推進議員連盟が『Japan Hearing Vision』を発表した。また2021年3月にはWHOが聴覚ケアのためのガイドライン『World Report on Hearing』を発表している。変化の兆しは明らかに出始めている。補聴器そのものを耳にする技術 では、補聴器そのものはどれくらい進化しているのか。 成沢は「テクノロジーについては、みなさんが想像しているはるか先まで進んでいます」と語る。 補聴器の目的は、基本的にコミュニケーションの円滑化にある。だから会話音声を聞き取りやすくするため、会話以外の雑音は排除する。そのカギを握るのはデジタル化だ。基本的なメカニズムは、マイクロホンで拾った音をデジタル化し、それを個々の難聴者にとって最適な聞こえ方となるようリアルタイムで音を加工する。個別最適化を実現するために、入力された音を複数の周波数帯域に分割し、帯域ごとに増幅加減が微調整される。 一連の機能を担っているのが、補聴器に搭載されたデジタルシグナルプロセッサである。これはわずか1.3ボルトの電池で稼働するマイクロコンピュータだ。 音声情報が無線送信されるインフラが整えば、たとえば緊急情報などを受け取る機能も補聴器は備えている。ブルートゥースなどを使い、スマホ経由でインターネットとの接続も可能。すでに補聴器は、難聴者のための情報通信機器となっているのだ。リオンの理想「“聞こえる”で当たり前の毎日を」 補聴器のあるべき姿を「難聴者にとっての耳の延長」と成沢は説明する。単に音を伝える機械ではなく、その人の耳そのものとなるのが本来の姿だ。ただし、補聴器が医療機器であることを忘れてはならない。一人ひとりの難聴度合いに合わせるためには、きめ細かなフィッティングも求められる。 技術的な進化については、常にさまざまなアイデアが生まれてもいる。そんな中で2014年に策定した、2030年のあるべき姿はいま、どれだけ実現しているのだろうか。 合計35のテーマのうち、すでに実現しているテーマが11、取り組みの始まっているのが同じく11ある。あと8年のうちに全テーマがクリアされるには、無線インフラの整備が鍵となる。 「歳をとったら耳が聞こえにくくなる、これは当たり前でしかたのないこと、などと簡単にあきらめないでいただきたい。進化し続ける補聴器を活用すれば、多くの難聴者が当たり前のように“聞こえて”、人とコミュニケーションできる。そんな世界を実現させたいのです」と、成沢は理想の未来像を語った。注意:この未来図は、国や自治体等による社会環境づくり等の計画の有無や、内容への関与を示すものではありません。10
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