RION Techinical Journal Vol.4
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自動車のエンジン内部の容積を計測する画期的な機器 目に見えない音や振動をセンシングし、見える化することで新たな価値が生まれる。これはリオンが創業から一貫して取り組んできた事業の骨子であり、その結果、優れた騒音計や振動計、微粒子計などが多数、リリースされてきた。こうした歴史において、時には自由な発想で開発されたユニークな製品も登場してきた。その一例が「音響式容積計」「音響式体積計」である。これらの機器は測定対象物の形状に関わらず、空気中で高精度に容積や体積を計測する機能を有する。キャリブレーションさえ行えば、特殊な技能を必要とせず容積や体積を計測できるという利点も広く社会に評価されている。音を計測することで新たな価値を見出した好例と言えるだろう。 環境機器事業部の井關幸仁は音響式 容積計・体積計の開発について詳細を知る一人だ。この機器が持つアドバンテージについて問うと、こんな答えが返ってきた。「容積や体積を測定しようとする時、一般的には、ビュレット法という液体を使う方法が用いられます。計測したい容器に液体を入れ、その液体がどれだけ入ったかを測定するという方法です。一方でリオンの音響式では当然、液体を使用しないので、対象物を濡らさずにすむという点が大きなアドバンテージです。現在、主な対象物は自動車のエンジンですが、様々な規格や規制に基づいて製造されるべきエンジンには容積を計測するプロセスが不可欠です。しかし、液体を注入して計測する方法では、その後に乾燥させるという工程が必要となり、時間も手間も掛かるわけです。また液体を入れるといっても誰もが簡単にできるものではなく、言わば職人的な技術が必要です。一方、音響式であれば誰が測定しても同じ値を出せるので、技術の継承が簡単です。こうしたアドバンテージをご理解いただいた結果、現在、日本のほぼすべての自動車メーカーに導入していただきました。また、近年では海外の自動車メーカーにも納入した実績があります。音と向き合ってきたリオンならではの製品だと自負しています」 自動車のエンジンが複雑な形状をしていることは誰でも理解できるだろう。その入り組んだ内部の容積を正確に計測することが品質管理という点で求められている。このような現場では従来、液体を用いて容積を計測するしかなかったが、リオンの音響式容積計を使用することで、現場環境が大きく改善することになったのだ。また、音響式体積計は現在、主に分銅などの体積を測定する際に用いられている。容積計、体積計、どちらも音響を利用し、これまでにない発想で開発された製品であった。井關はこう続ける。「キャリブレーション用の金属製校正器を基準として容積を比較測定するので、原理的には金属のほか、硬質のプラスティックやガラスで構成された容器の容積を計測することが可能です。一方で、スポンジのような素材で作られたものを計測することは難しいですが」アルキメデスの原理古代ギリシアの学者・アルキメデスが入浴中に発見したこの原理は、純金で作られているはずの王冠に混ぜものが入っているかどうかを検証すべく悩んでいたことから生まれたとされる。原理の骨子は、流体(液体や気体)中の物体はその物体が押しのけている流体の質量が及ぼす重力と同じ大きさで上向きの浮力を受ける、というもの。この原理によって物体の体積を測るという実験を経験した人も多いだろう。音響式容積計音響式容積計のデモンストレーション。この機器内部に設置された2つのマイクロホンが圧力の変動を感知することで容積や体積の計測が可能となる。イラスト/菅野恵井關 幸仁環境機器事業部 音響振動計測器営業部 計測器営業技術課。環境計量士、公害防止管理者(騒音・振動関係)。かつては特注製品の設計に関わっていたことから、音響式容積計・体積計の開発、製造に従事。現在は顧客への提案、デモンストレーション、運用相談などの業務を行う。3

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