RION Techinical Journal Vol.4
6/24

 基礎原理となっているのはボイル・シャルルの法則だ。一定温度下で、一定量の気体の体積は圧力に反比例する、という法則である。「簡単に言えば、圧力×体積、または圧力×容積は一定なんです。ですからスピーカーから音を発生させ、圧力変動を起こし、機器に内蔵したマイクロホンでセンシングするという構造によって計測を実現しています。厳密に言えば校正器からの情報をもとに数値を算出していくわけです。言い換えれば、算出した数値を人工的にかけた圧力分で割れば容積や体積が出てくるというもの。イメージとしては密閉された空間内で圧力の変動を起こし、その変動を音のセンサーで拾うという感覚ですね」マイクロホンの温度特性をどう理解し、克服するか 90年代後半に登場したこの音響式容積計・体積計だが、機能は着実にアップデートしながら歴史を紡いできた。中でも大きな機能変更は温度変化への対応マイクロホンは同じように見えても、温度の変化によって反応が微妙に異なるわけですね。たとえば騒音計は1台につきマイクロホンが1本設置されているだけですからこの温度特性は、さほど問題となりません。でも音響式容積計・体積計には1台につき2本のマイクロホンが必要です。ですから個々のマイクロホンの温度特性を揃えておかなければ測定値にバラツキが出てしまうのです」 そこで井關が取り組んだのは温度に対する感度特性が揃ったマイクロホンのペアリングを検討するという作業だった。「30個のマイクロホンがあれば、その中から似たような温度特性を持つマイクロホンを探して2つのペアにしていくという作業です。このペアリングが上手くいくと、周囲の温度が変化しても極めて誤差を少なく計測できるわけです。機能向上後は1℃の温度変化に対して0.1 mL以内の変動で収まるようになったのです。温度特性に着目してマイクロホンを選定することで、こうした精度の高い測定が実現できるようになったわけです」である。この温度変化への対応機能はどのように追加されてきたものなのか、井關はこう説明する。「私は今から15年ほど前、この音響式容積計・体積計を製作する特注部門に所属していました。その頃、課題となっていたのが温度変化への対応です。温度が変わってしまうと、測定値が変動してしまうという欠点があったんです。そこでこの課題を改良すべく、様々な検証をしたり、部品レベルでの設計を見直したりといった業務に関わったんです。この改良を実現するまでには半年ほどかかりました。前任の方がアイデアは持っていたんですが、販売する製品にそのアイデアをどう注入して実装するかを私が担当したんです」 機器の内部を見てみると2つのマイクロホンが設置されている。このマイクロホンにある温度特性が、問題の核心だった。性能を向上させるためには、この温度特性を克服しなければならなかったのだ。「同じ部品、工程で作られたマイクロホンでもそれぞれのマイクロホンには温度特性というものがあるんです。個々の音響式容積計の断面図音響式体積計の断面図コントロールボックス基準槽容積 V1正弦波信号連通管アダプタ取手マイク1マイク2スピーカ測定槽被測定物(体積 V)コンピュータUSBe1e2V2⊿P2ー⊿P1コントロールボックス基準槽容積 V1正弦波信号連通管アダプタ取手マイク1マイク2スピーカ燃焼室 VシリンダヘッドコンピュータUSBe1e2V2=V0 +VV0⊿P2ー⊿P14

元のページ  ../index.html#6

このブックを見る