RION Techinical Journal Vol.4
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メーカーからの依頼で音響式容積計の開発へとつながっていったという。「石井教授は、ゆりかごのような容器に赤ん坊を入れ、数秒で体積を測れるような機器を目指していたんです。その基礎的な原理が現在の機器につながっているわけですね。いずれにしても水に濡らすこともなくドライな状態で、しかも短時間で容積、体積が計測できるこの機器は画期的だと思います」 現在はエンジンの容積やゴルフボールのディンプル検査、分銅の体積を測るといった限られた用途に留まるこの機器だが、今後、どのような分野に活用できる可能性があるか、平尾氏に聞いてみるとこんな答えが返ってきた。「音響によって表面積を計測しようという試みは近年、ありました。たとえばギア(歯車)。ギアの表面はギザギザしているでしょう。この表面積を正確に計測するのに定規では測れませんよね。製造工程上、このように複雑な形状をしたギアの表面にコーティングをするにあたって、事前に必要なコーティング剤の量を割り出すため、正確な計測が必要なんです。赤ん坊の体積を測る、という元来の目的 音響式容積計・体積計の仕組みはもともと、東京大学工学部音響研究室の石井教授とそのグループが考案したものだった。現在、小林理学研究所で音響振動の研究を専門とする平尾善裕氏はこの石井教授のアイデアが製品化につながった流れに詳しい一人だ。平尾氏はこう話す。「この音響式容積計・体積計の原型は、実は赤ん坊の体脂肪率を知るために体積を測るという目的で石井教授が考案したアイデアでした。石井教授は大きなチューブのような容器に赤ん坊を入れ、音を使って体積を測るという仕組みを実用化しようとしていたんです。この計画は結局、実用化に至らなかったもののノウハウは蓄積されました。そして石井教授が退官された後、製品として初めて作られたのが分銅の体積を測る機器だったのです」 この機器は1995年に産業技術総合研究所、計測科学研究所、小林理学研究所、リオンが共同で開発、発売したもの。そしてこの後、日本の大手エンジン製造結局、実現には至りませんでしたが、今後、音響を利用して何かを測るという機器が登場する可能性は大いにあると思います。音で変形しない対象物であれば理論上、ドライな状態で、しかもスピーディに正確な計測ができるわけですからね」 今回、フォーカスした音響式容積計・体積計は決して世界中で広く利用されているものではないが、このような機能を切に求めていた業界においては間違いなく重要な役割を果たす機器となっている。あらためて、この製品の意義について問うと、平尾氏はこう口にした。「まず石井教授の理論が画期的であったということは間違いありません。そしてこれを実用化しようと関わった皆さんの知見、努力にも敬服いたします。そして何より、実用化には至らなくともそのノウハウが確実に蓄積され、後の時代に継承され、形や目的は当初の考えと異なったとしても、社会に貢献する製品として世に出たことは素晴らしいことですよね。私自身も少なからずこのような製品の開発に関われて、あらためて嬉しく思います」測定原理「一定温度下で、一定量の気体の体積 V は 圧力 P に 反比例する」というのがボイル・シャルルの法則。音響式容積計・体積計ではこの法則に則り、校正器を使用して、圧力の変化を人工的に発生させることで、容積、体積の計測を可能としている。マイクロホン 機器内部に使用されるエレクトレットコンデンサマイクロホン。このマイクロホンが圧力変動を検出し、それらの比から容積、体積が算出される。V2V1⊿P1⊿P2=-VV2V0=(V1:一定)γ⊿V=⊿P1P0P0V1γ⊿V=⊿P2P0V2(V0:一定)(圧力)×(体積)=一定(γは空気の比熱比:1.4):槽内の静圧(大気圧)⊿P1:基準槽内の微小圧力変化⊿P2:(容積計)アダプタ内と被測定物を合わせた空間の微小圧力変化(体積計)アダプタ内および測定槽と被測定物のすき間を合わせた空間の微小圧力変化γ5平尾 善裕一般財団法人小林理学研究所 主任研究員 博士(工学)。音響計測用のマイクロホンや騒音計、加速度センサーなどを使用し、機械、建造物、道路交通、航空機などの騒音振動計測に従事するエンジニア。かつてリオンへの出向時に音響式容積計・体積計の開発に関わる。

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