RION Techinical Journal Vol.5
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【HD-11】(1997年)1997年に発売された、他モデルとは一線を画すデジタル補聴器。低音域に対してのみ聴力が残存する最重度難聴者を対象とし、高音を聞きやすい周波数に変換する周波数圧縮型のデジタル補聴器であった。その後、耳かけ型や耳あな型でも高度・重度難聴向けのデジタル補聴器が開発されるようになり、HI-G7タイプ、リオネットピクシー、HB-W1タイプなどを発売した。デジタル補聴器を世界で初めて発売 リオンが日本初となる量産型の補聴器を世に送り出したのは1948年。それ以来、リオンは日本の補聴器の歴史とともに歩み、さまざまな製品を開発してきた。その中で技術的に一つの大きな転機となったのが、1980年代終わりごろから進められた補聴器のデジタル化だ。 当時、世の中のさまざまなものがアナログからデジタルへと移行する中、アメリカの大学でデジタル補聴器のプロトタイプが製作されるなど補聴器にもデジタル化の波が押し寄せつつあった。そのような状況の中、リオンではポケット型デジタル補聴器「HD-10」を世界で初めて発売する。1991年9月のことだ。 「アナログではできない音処理をしないとデジタルにする意味がないと考えていた」─リオンの舘野誠はそう回想する。当時、アナログ補聴器はポケット型よりも耳かけ型の方が多く販売されていた。しかし小さくなるほど電圧や電力の面で設計や製作が難しくなる。「デジタルならではの機能を備えた補聴器を実現できるのであれば、たとえ耳かけ型ではなくても出す意味がある」と舘野たちは考えた。 もちろん世界初の試みがすんなりと運ぶはずがない。HD-10の開発は試行錯誤の末に実現したものだ。 デジタル補聴器では、マイクロホンに入力された音はAD(アナログ・デジタル)変換器でデジタル信号に変換され、その信号をDSPで処理したのちに再びアナログ変換して音として出力する。HD-10の開発にあたっては、IC(集積回路)やDSP、AD変換器の調達が大変だったと舘野は言う。「予算の関係もあり本格的なICを開発することはできません。そこで『スタンダードセル』というイージーオーダー的なICのうち、補聴器に使えそうで予算内に収まるものを探しました」 とくに苦労したのがAD変換器の選定だったと舘野は続ける。補聴器の場合、音の大きさや音源の距離などさまざまな状況にうまく対応する必要がある。さまざまなAD変換器での試行錯誤が繰り返された。 最終的にHD-10で採用したスタンダードセルには、内部にAD変換器の回路も入っており、それが補聴器にも使える性能を持っていた。そのICが見つかったことが非常に大きかったと舘野は振り返る。【HD-10】(1991年)1991年に世界で初めて発売されたデジタル補聴器。入力された音を低音域、中音域、高音域に3分割してデジタル変換し、周波数帯域ごとに信号処理するため、従来のアナログ補聴器と比べて自由な入出力特性を実現した。また音の設定をいくつか保存しておいて、場面に応じてボタン一つで切り替えることができた。【HI-P1K】(1997年)HD-10の発売以降は補聴器専用のDSP調達に苦心しながら、デジタル補聴器の開発が進行していった。この「HI-P1K」はオーダーメイドタイプのプログラマブルデジタル補聴器として1997年に登場。音処理はアナログ回路で行われていたが、場面に応じた音の切り替えはデジタルで行っていたモデル。アナログからデジタルへの移行期において異彩を放つモデルだ。8

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