RION Techinical Journal Vol.5
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DSP耳かけ型・耳あな型のデジタル補聴器へ HD-10の発売後、舘野たちは耳かけ型のデジタル補聴器を開発したいという考えを抱いていた。ただ、ポケット型より小さな耳かけ型では回路の小型化が必要となり、また電池が小さくなることから使用できる電力も少なくなる。耳かけ型の実現には専用のDSPが不可欠だった。しかし「当時の日本の半導体メーカーは量産性の高いものが中心で、補聴器向けの少量生産でのIC開発は難しかった」と舘野は語る。 そのような状況の中、補聴器専用のDSPを米国ベンチャー企業から供給を受けられることになった。それを受けて耳かけ型・耳あな型のデジタル補聴器の開発を進め、1999年に「HB-D1」「HI-D1/HI-D2」が発売された。 HD-10から8年を経て実現した耳かけ型・耳あな型のデジタル化だったが、まだ進化の余地は残されていた。当時の補聴器向けのDSPは、自分たちで自由にプログラミングできるわけではなかった。組み込み済みの複数の音処理のプログラムを必要に応じて選んで使うことしかできず、細かい調整はできなかったのだ。 「自分たちの思い通りにプログラミングしたい」─それが実現したのが、2009年に発売されたリオネットロゼシリーズだった。補聴器に搭載できるほど小型かつ省電力で、プログラミングの自由度が高いDSPが入手可能となったことで実現したものだ。「プログラミングの自由度が上がり、製品を改良しやすくなりました。お客様の要望に応えて満足度の高い補聴器を作りやすくなったのです」 リオンではその後、リオネットロゼシリーズを核として製品のラインアップを広げていき、2017年にはリオネットシリーズが発売された。アナログからデジタルへの転換、そしてその後の進化は「補聴器を聞きやすくできる手段があれば何でも取り入れたい」という補聴器の開発者たちの思いにより実現してきたのだ。【HB-D1】(1999年)1999年に発売した耳かけ型のデジタル補聴器。米国ベンチャー企業のソニックイノベーション社が開発した補聴器専用のDSPの供給を受けて作られた補聴器だ。HB-D1は使いやすさ、表示などの親切さ、デザインの総合的な完成度がすぐれていることが評価され、2000年度グッドデザイン賞を受賞した。リオネットロゼ(2009年)2009年に発売したデジタル補聴器。自社で自由にプログラミングすることが可能なオープンプラットフォームDSPを利用して開発した。補聴器で音のコントラストを調整し、自動的に聞きとりやすい音にする独自の技術「SSS(サウンド・スペクトル・シェイピング)機能」を搭載した。99舘野 誠技術開発センター長。1981年に入社。入社4年目から補聴器関連の業務を行ってきた。聴覚障害児の早期発見や早期教育などの研究に関わる業務に従事したのち、HD-10の設計・開発に携わった。その後、聾学校で使用する設備の開発や補聴器向けのIC開発のプロジェクトなどにも関わってきた。DSPとは?「Digital Signal Processor」の頭文字を取ったもので、AD変換器でデジタルに変換された音のデータ(デジタル信号)をもとに計算して音処理を行う装置。コンピューターでいえばCPUに当たる部分だ。たとえば大きな音と小さな音で増幅幅を変える、ノイズを低減する、補聴器で起きやすいハウリングを抑制するなどの音処理をすることができる。

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