・ アクティブノイズキャンセレーション・ MVDR型ビームフォーマー・ バイノーラル風雑音抑制・ バイノーラル突発音抑制・ 音響ばく露音計測を利用した聴覚保護・ スマートフォンアプリを利用した聞こえの程度測定・ 聞こえの程度に合わせた自動調整 これら搭載機能は、リオンの技術開発センター発足から約半年後(2019年10月)にスタートした「両耳ヒアリングデバイス研究会」にて多くのメンバーとの議論によって決定しました。このデバイスは、両耳で聞くという「アタリマエノキコエ」の提供と、両耳へ到達する音を活用して「圧倒的なキコエ」を実現するというコンセプトをもとに設計しています。—多くの機能が搭載されている印象ですが、開発にあたって苦労した点や、実現のために工夫した点について教えてください藤坂|実はこのデバイスに用いているSoC(System on Chip、システム・オン・チップ)は、ワイヤレスイヤホンなどに搭載されている汎用的なものです。そのため、これまで補聴器開発で培われた補聴器用SoCのコーディングノウハウが通用せず、新たなノウハウの獲得が必要でしたが、補聴に関わる音響処理機能については、協力会社の助けもあり、概ね大きな問題もなく搭載できました。真のリアルタイム処理が要求される聴覚補助型ヒアラブルデバイスにおいては、処理遅延を短くすることが重要です。しかしこの部分の実現が非常に困難でした。遅延時間を短くする手段として有効なサイドブランチ形式のシグナルフロー(補聴器にも用いられている)を、本デバイスに仕様として取り入れていました。しかし、通常のワイヤレスイヤホンの信号処理ブロックでは許容できる処理遅延時間内に収めることができず、そのブロックの変更が必要になりました。一切の妥協なく安定的に信号処理音を出力するという制約を課したため、ファームウェア開発の多くの時間をこの修正に費やすことになりました。 また、前述したMVDR型のビームフォーマーは計算コストが大きく、処理フレーム毎に理論通りに計算を行った場合、搭載することは不可能でした。そこで、目的となる音が左前方もしくは右前方にあると仮定し、あらかじめビームフォーミングフィルタを設計することにしました。通常このフィルタは、信号処理の前段にて用います。しかし、そのフィルタリング処理による遅延が発生するため、図1に示すようにサイドブランチ形式のシグナルフローの周波数領域上にてWDRCシステムから出力されたゲインと畳み込むことによって、遅延時間に影響しない形で搭載しました。図2に示す客観的な音声了解度推定による評価のように、前述処理によって了解度が7%ほど向上し、低遅延と有効性の両方を実現しています。—このデバイスが製品化されれば、社会にどう貢献できると考えていますか?藤坂|難聴は認知症リスクの要因として近年、注目を集めています。今回のコンセプトモデルは、騒音性難聴のリスク軽減を目的として、騒音レベルを監視しうるさい環境下では耳に入る音の大きさを抑える機能や、突発的に大きな音が起こった際に、その衝撃音を抑える機能などを備えています。シニアの方々もこのデバイスを使用することで、「アタリマエノキコエ」を楽しんでいただき、社会的な孤立を抑制することで、認知症予防ができれば、健康寿命の延伸につながり、要介護者の増加に伴う介護負担費用の増大を抑えるだけでなく、日本全体の生産性の減少への対処、定年延長と年金問題の解消など社会的な課題解決にもつながるのではないかと考えています。図1 コンセプトモデルの信号処理ブロック図2 前方右方向(左図)及び前方左方向(右図)ビームフォーミング処理の有無による客観的な音声了解度推定結果13
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