EPILOGUE SCIENCE, SCIENCE! SsTd E=+tDdTεE=+歪み誘電率直接圧電効果のマトリクス電荷密度変位電界強度短絡状態でのコンプライアンス応力複雑怪奇な「圧電」の世界 私はお世話になった大学教授の影響から、自然の状態で誘電分極を持ち、この誘電分極が外部電圧をかけることで反転可能な物質である強誘電体と、圧電定数について調べることに興味を持つようになりました。言ってみれば、材料開発に役立つ研究です。扱ったのは、主にポリフッ化ビニリデンという、高純度、高強度、耐薬品性、耐熱性が要求される際に有用な熱可塑性フッ素樹脂。ポリフッ化ビニリデンは他のフッ素系プラスティックに比べ加工性が良く、釣り糸やギターの弦などに用いられるので身近な樹脂でもあります。そしてこの樹脂は圧力を加えることで生じるひずみに応じ、電圧を発生させる点が特徴で、これを圧電性と呼びます。一方で、カセットコンロやスピーカー、水中ソナーなど多くの分野で用いられる圧電性の素材に圧電セラミックスというものがありますが、これとポリフッ化ビニリデンを比較すると、ポリフッ化ビニリデンの方が圧電セラミックスの10倍程度、可逆的に伸ばすことができるという利点を有し、これにより圧電セラミックスと同等の発電量を得られます。※ ※ こうした研究を通じて私が今でもその面白さに惹かれているのが、圧電方程式です。圧電材料を用いて世の中の様々な機器を開発するには、この圧電方程式が不可欠なのです。 圧電とは、力の3成分のほか異方性、周波数特性、複素成分など実に多くの要素や成分が関わるとても複雑な現象です。このような複雑な圧電性をもつ物質をこの式によって言い表すことができるという部分にまず私は強い興味を覚えました。さらに言えば、この式を用いて圧電材料を考察する時、理科と数学、双方の関わりに触れられる、双方について検討しながら計算が楽しめるという部分に私は面白さを感じているのです。計算である程度成分について割り出し、さらにこのような成分があるからこのように計算をして、とある値を導き出す、複雑怪奇な経緯をたどる圧電の計算。現象や物質からひとつひとつ要素をひもといて、これらを計算式で整理していくという感覚でしょうか。※ ※ 圧電方程式は一見すると非常にシンプルですが、実際に実験などで計算の経路を辿っていくと、極めて複雑な要素が絡まっているのが分かる。あらためて自分がなぜこの圧電方程式に興味を持ち続けているのかを考えてみると、「眼の前で起きている現象には、見た目に反して実に複雑な事象が絡み合っている」ということが理由で、簡単に見えることに対しても「深く考える」ということを意識するようにもなりました。人生を変えたとまでは言えませんが、圧電方程式によって事象に対する考え方が少し変わったかなという感覚です。リオンを支える、理科や数学好きなスタッフたち。 この連載では、理数系のスタッフがそれぞれの「理数愛」 を語る。第6回は「圧電方程式」について。理数好きなもので。リオンスタッフのこだわりコラム線形圧電性は、電気的および弾性的な機械的な作用の効果であり、こうした作用は数式によって定義される。Sはひずみ、sは短絡状態でのコンプライアンス、Tは応力、Dは電荷密度変位、εは誘電率、Eは電界強度。この数式によって、複雑な圧電という現象の一端を垣間見ることができるといえよう。石井 肇 技術開発センター 音響振動センサ開発グループ所属。2019年入社。現在は主に地震計のセンサに関わる業務に従事しながら、圧電素子を用いた加速度計算のセンサ開発にも関わる。No. 006理科と数学の交差点20
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