RION Techinical Journal Vol.6
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1970年代のパーティクルカウンタ事情 「クリーンルームにとってパーティクルカウンタは必須の技術」。そう語るのは東京工業大学名誉教授で、現在は日本空気清浄協会の会長を務める藤井修二博士だ。 パーティクルカウンタ(微粒子計測器)は、その名の通り空気中や液体中の微粒子を計測する装置である。空気中の微粒子を測定する気中パーティクルカウンタは主にクリーンルームの清浄度管理、液体中の微粒子を測定する液中パーティクルカウンタは電子工業で純水・薬液の微粒子管理や注射剤の試験などで使われている。 現在リオンでは、気中、液中ともにさまざまなタイプのパーティクルカウンタを販売している。その端緒となったのは、1976年に開発し翌77年から販売を開始した国産初のパーティクルカウンタ「KC-01」だった。KC-01は、5粒径を同時に計測でき、当時としては比較的安価な100万円を切る価格で販売されていた。そして藤井博士はこのKC-01のリリース、その後に続くリオンの微粒子計測器開発に大きな影響を及ぼした重要人物である。 博士は1970年代、東京工業大学の大学院で早川一也教授の研究室に所属し、修士課程まではエネルギーの研究をしていた。「博士課程になって空気清浄に興味を持つようになり、室内環境の微粒子の問題を研究するようになりました。当時は主に病院の空気清浄の研究を行っていましたが、半導体のクリーンルームはまだ特殊な分野でした」 KC-01の販売前、国内では海外製のパーティクルカウンタが輸入販売されていたという。「私が学生の頃、アメリカのロイコ社が発明したパーティクルカウンタが販売されていましたが、かなり高価で日本国内には数台くらいしかありませんでした」と博士は話す。 米国では、光散乱を利用して簡便に粒子計測をする技術が登場した。これは粒子に光を当てて散乱光を計測する方式のものだ。(注1)粒径別の個数濃度の計測に簡便な方法だったことから、博士は日本の病院の空気清浄に応用できないかと考えたのだ。 リオンがクライメット社のパーティクルカウンタの輸入販売を開始したのは1972年のことだ。「当時、ロイコ社とは別に、アメリカのクライメット社のパーティクルカウンタをリオンさんが輸入販売していました。クライメット社製の装置はロイコ社製のものとくらべてかなり安価でした。価格的になんとか購入できるということで、研究室で2台購入したのです」海外製のパーティクルカウンタにリオン製の波高分析器を取り付けて研究 クライメット社製のパーティクルカウンタは、チャンネルを切り替えて電圧レベルを調整しながら1粒径ずつ測定するようになっており、0.5 µm、1 µm、3 µm、5 µm、10 µm以上の5粒径の中からいずれか1粒径を選択して測定を行うことが可能だった。研究室で購入して仕様を見たところ、アナログ出力端子があることに博士は気付いた。「アナログ出力を利用すれば、同時に5粒径の測定ができるのではないか」 そして、文部省(当時)に科学研究費を申請し、新たに装置を開発することにしたという。この時、開発しようとしたのは、センサ自体はクライメット社のパーティクルカウンタを使い、アナログ出力を利用して同時多粒径を測定する波高分析器(パルスハイトアナライザー)で5つの並行したパルスに変換して出力し、それを記憶装置にデジタルで記録するというものだ。 クライメット社製のパーティクルカウンタは光散乱方式だった。この方式のものは、散乱光の波高を分析することで粒径を分けることができる。 「元のセンサ部分がクライメット社製だったので、その輸入販売元であるリオンさんに波高分析器について相談することにしました。当時の営業の小林正義さん(元営業部長)に相談したところ、販売開始当時の「KC-01」の広告空気清浄協会の機関誌1977年9月号に掲載したパーティクルカウンタ「KC-01」の広告。KC-01は小型かつ100万円を切る価格設定によりたいへん好評だった。藤井 修二東京工業大学名誉教授、日本空気清浄協会会長。専門は建築環境・設備、空気清浄、情報環境。1973年に東京工業大学工学部建築学科を卒業後、1978年まで同大学理工学研究科の早川一也教授の元で大学院生活を送る。同大学助手、助教授を経て1994年から2015年まで教授を務めた。藤井博士が大学院時代に使った微粒子計測装置の概念図藤井博士が早川教授らとともに1976年に行った病院での微粒子計測で使用した装置の概念図。上がクライメット社製のパーティクルカウンタ、中央がリオンで開発した波高分析器、下がデジタル記憶装置である。(「浮遊微粒子濃度の評価に関する基礎的研究—病院の手術室における測定結果—」藤井修二, 1977年)注1)第2次世界大戦中の原子爆弾の製造時、放射能を帯びた浮遊微粒子から作業者を保護するためにエアフィルタが用いられ、その性能測定のために光散乱方式のパーティクルカウンタが開発された。1973年、この技術をリオンがいち早く日本に紹介。3

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