今回のテーマ今回のテーマ[守り伝えたい文化財][守り伝えたい文化財]ホームタウン!meets取材後記沖本邸(カフェおきもと)1933(昭和8)年に建てられた国登録有形文化財「沖本家住宅」。2020年にリノベーションし、現在は「カフェおきもと」として一般に開いている。国分寺産の農産物「こくベジ」などを使った野菜たっぷりのランチメニューが人気。「カフェおきもと」オーナー 久保 愛美さん沖本邸を引き継いだ後、建物の文化的な価値を知り、残していかなければと思ったそう。「この建物でカフェが開けたら素敵だね」という沖本さんとのおしゃべりを思い出し、カフェとして活用していくことを決めた。酒井 哲TownFactory一級建築士事務所代表1970年生まれ、東京都日野市出身。宇都宮大学大学院修了後、鈴木喜一建築計画工房を経て、2001年にTownFactory一級建築士事務所を設立。地域に眠る歴史文化遺産を発見し、保存と、地域づくりに活かすヘリテージマネージャーとしても活躍。「多摩のあゆみ」(たましん地域文化財団)で建物雑想記を連載中。一級建築士、住宅医。コーディネーター/棚橋 早苗リオンのスタッフが、国分寺で活躍する旬な人や場所を訪れ、国分寺の魅力を再発見するコーナー。今回訪問したのは、1933年に建てられ、2021年に国の登録有形文化財となった「沖本邸」。住宅地に突然現れる竹林の奥には、ただの「古民家」という言葉では表せない佇まいの邸宅が待ち受けていた。18 リオン本社が建つ国分寺崖線とは、立川市から大田区まで連続する全長約30kmの崖地である。豊かな緑に覆われた崖地は野鳥や小動物の生活空間であるとともに、大正時代からは富裕層の別荘地として発展し、国分寺市内にも別荘が建てられた。さらに昭和初期になると、JR国立駅周辺の学園都市開発をきっかけに、別荘や住宅が建てられていった。今回訪れた「沖本邸」は後者の文脈の建造物で、国の登録有形文化財である。 沖本邸には洋館と和館の二つの建物があり、渡り廊下で繋がっていることが大きな特徴だ。外観のプロポーションが象徴的な母屋は、アメリカのコロニアル様式で建てられた洋館である。屋内に入ってみると、家具も内装に合わせて作られており、シンプルながらに細かいところまで意匠が行き届いている。この建物のすごいところは、西洋のセオリーに則っているため「洋風の建物」ではなく「純正の洋館」だということ。洋館を建てることができた理由は、建て主である土井内蔵と設計をした川崎忍がアメリカに留学していたことにあり、彼らが経験した洋式の生活と、現地で学んだ建築技法に基づいている。その上で、日本の生活習慣に合わせ、靴を脱ぐことができるように玄関扉を外開きにするなどのアレンジが加えられているのだ。 洋館が建った4年後、この邸宅は土井内蔵の同郷であった沖本至に譲られた。「西洋での生活経験がなかった沖本一家にとって洋館は住みにくいところもあったようです。そこで、和館が増築されました。この和館は『近代和風建築』と言われ、平成時代に評価されるようになったジャンルですが、沖本邸の和館は名建築です」と酒井哲さんは教えてくれた。日本の伝統的な技法と電気・ガラス・金物などの技術や素材が合わせて用いられていて、和の文脈を保ったまま近代化されている。洋館は居住用として質素に作られているのに対し、和館は客人をもてなすことを想定して、目を楽しませるような意匠が散りばめられている。 「純洋式の建物と和の文脈をしっかり引き継いだ建物、その両方が一つの邸宅にあること、それが沖本邸の魅力であり価値ではないかと思います。こんな建物は滅多にありません」 現在、沖本邸は沖本家のご息女から、隣人の久保愛美さんへと引き継がれた。久保さんはこの邸宅を残していくために奮闘中だ。洋館はカフェとして、和館は演奏会や展覧会などのイベントスペースとして活用しながら、維持管理を行っている。広い庭と、古く貴重な建物の保存や修復は簡単なことではない。しかし、周辺の住民や沖本邸のファンに支えられながらここまできた。 文化財の建物の中で食事や芸術鑑賞ができる、そんな体験をできるところが国分寺に残っているのはとても幸運なことなのだ。色々な課題に直面しながらも、沖本邸を守り続けている人たちへの感謝の気持ちは尽きない。国分寺にもこんな場所があったんだ。室内を案内していただくと、蓄音機や黒電話、暖炉などが当時のままの姿で置いてあり、洋館と和館の両方に戦争の傷跡が残る。思いを馳せることでタイムスリップしたような感覚になりました。この場所で様々な物語が生まれ、今もなお歴史的建造物として保存されるだけでなく、カフェや音楽イベントなどを通じて新たな出会いの場となっている。バトンが受け継がれて、現存しているからこそ触れられる歴史を感慨深く感じました。(リオンテクニカルジャーナルスタッフ 岡部 雄紀)OUR FAVORITE TOWN, KOKUBUNJI リオンのスタッフがナビゲート 洋館も和館も一級品! 国分寺崖線に残る昭和初期の貴重な邸宅リオン国分寺
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