RTJ_vol9
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 「ベトナムプロジェクトは、航空機騒音を測定する技術をベトナムのエンジニアたちに伝えることと、航空機騒音測定マニュアルを共に策定することを目的としたプロジェクトです。リオン技術開発センターの大屋をプロジェクトリーダーに、JICAの“開発途上国の社会・経済開発のための民間技術普及促進事業”としてスタートし、私はその技術セクションのリーダーを担当していました」と話すのは、フィールドエンジニアリング部の廻田(さこだ)だ。測定、評価技術などの発展および政策への提言など航空環境問題に多く貢献されてきた山田氏(当時弊社顧問)ら有識者の後ろ盾を得ながら、2018年9月には航空機騒音の監視および測定技術の確立に向けた技術協力のため、リオン、ベトナム民間航空局、ベトナム空港公社と3社の合意契約を締結した。 2~3カ月に1度は訪越し、現地に精通している海外営業部の石田は、営業の立場でプロジェクトを支えた1人で、2018年頃のベトナムの状況をこう振り返る。「当時、航空機騒音はベトナム政府や環境の専門家の中で問題視されている段階で、一般にはまだ浸透していませんでした。しかし、ホーチミンの市街地にあるタンソンニャット空港周辺で調査をすると、“耐えがたい騒音だ”と訴える声もあり、空港周辺の住民は強い関心を持っているようでした。私自身も視察の際、3分に1度ほどの頻度で轟音を鳴らしながら旅客機が頭上を通り抜けていく状況を体感し、危機感を覚えました。騒音は慣れてしまう面もありますが、ばく露され続けることで難聴を引き起こす可能性があります。早急な環境改善が必要だと思いました」ベトナムに限ったことではないが、空港周辺は商機を求めて地方から多くの人が集まる傾向があり、経済的弱者が住んでいることも多い。彼らの抱える環境問題は存在するが、その声が届きにくいので、航空機騒音観測のプロジェクトを進めることは社会的意義も高かった。 合意契約の締結から2カ月後、2018年11月には、首都ハノイにある北部最大のノイバイ国際空港にベトナム初となる航空機騒音観測装置を設置。測定評価マニュアルの作成、機器の測定技術指導がスタートした。通常、空港の構造や測定したデータの内容によって納入機器の内容が決められるが、今回はトレーニング目的だったため、航空機騒音観測装置を4局とデータ処理用のコンピュータを一式の構成で納入した。核となる機器は、4つのマイクロホンを用いて航空機の騒音とその他の音を識別する「AN-39D」と、測定・記録する「NA-39A」。さらに、長期間の連続測定に適した「MS-11A」という屋外用マイクロホン(感度変化の主要因である結露を抑止し性能維持できるヒーターと、自動で感度確認を行うテスト音源を内蔵)など、リオンの最新機器を用いて、プロジェクトは着々と進んでいった。「最も気を遣ったのは、測定評価マニュアルの作成において、我々の考えを押し4環境騒音観測装置「NA-39A」「航空機騒音に係る環境基準」に対応した評価値を算出でき、航空機騒音を自動観測するシステム。搭載された「1/3オクターブバンド実時間分析機能」でより細かな分析を行い、GPS機能で測位情報の取得や自動時刻校正が可能。取得したデータは航空機騒音管理ソフトウェアにて、集計、閲覧、レポート出力まで行える。従来製品(NA-37)に比べサイズは1/3サイズ、消費電力は50%削減。より正確な測定情報を長時間連続監視できるようにアップデートされた。音到来方向識別装置「AN-39D」4つのマイクロホンを用いて仰角•方位角を測定し、航空機騒音や地上音の到来方向の検出が可能。音源の発生位置やその移動方向などを測定することにより、音源が航空機騒音であるのか否かを高精度で判別することができる。地上騒音発生のイメージ空港にはさまざまな地上騒音が存在する。特に大きなものとして、単発騒音では着陸時のエンジンの逆噴射(リバース)音、準定常騒音ではたくさんの航空機がタクシング(駐機場と滑走路の間を行き来する際の地上滑走)していた場合に、重なり合うことでかなりの騒音となるエンジン音がある。これらの地上騒音を航空機騒音と識別して分析する必要がある。耐えがたい騒音から住民を守るためにベトナムのハノイに航空機騒音観測の土壌を築く

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